小売業は、仕入れた商品を一般の消費者向けに直接販売するため、消費者との距離が近い業種といえます。宿泊・飲食サービス業は、消費者との距離が小売業よりもさらに近くなります。また、これらの業種は非正規雇用労働者への依存度が高く、慢性的な人手不足が課題となっています。ここでは、小売・宿泊・飲食サービスの目標となりやすい、あるいは注目すべきSDGs目標を業界動向と併せて解説します。
消費者に商品やサービスを購入してもらうためには、消費者がどのような考えで購入するのかといった消費者行動をよく理解したうえで、適切な商品・サービスを仕入れ、販売する必要があります。
近年では、消費行動を通じて地球環境に良いことをしたい、買い物を通じて貧困等の社会課題解決に寄与したいと考える消費者も増えてきました。例えば、適正な価格で取引することで途上国の生産者の生活を支援するフェアトレード商品や、環境・労働問題等に配慮したエシカル商品の市場は年々拡大しています。
また、海洋プラスチックごみ問題の観点から、プラスチック製の包装やカトラリー等の使用をやめる動きも拡がってきました。これらの業種は消費者の行動変容の影響を受けやすいため、人々のサステナビリティ意識の変化などにも感度を高めておく必要があります。
参考URL:フェアトレードとは?(フェアトレードジャパン)
日本国内で、まだ食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」は約522万tに及び、世界の年間食糧援助量(国連による紛争地域・貧困地域への食糧援助の量420万t)を上回る量です。このうち、事業者(食料品の工場や飲食店など)から発生する「食品ロス」は約275万tです(2020年)。特に商品寿命が短い生鮮食品を多く扱う小売業や飲食サービス業では、天候不順などの外部要因や発注担当者の需要予測の見誤り等により過剰在庫を抱え、多量の食品廃棄が生じることがあります。
そのため、「食品ロス」が減るような賞味期限や包装、流通上の工夫が求められます。また、同時に、食べられないために廃棄する「食品廃棄物」の削減やリサイクルも忘れてはならず、資源の有効活用を総合的に進めていく必要があります。食品廃棄物やロスを減らすことは、コスト削減になると同時に、顧客の動向を踏まえた活動であるとも言えます。最近では、AIやIoTなどを活用し、スーパーや飲食店での需要を精緻に予測することで仕入量を最適化する取り組み支援なども広がっています。このような取組みを行っている、あるいは目標にしている企業はSDGs目標12を推進しているといえるでしょう。
参考URL: (事業者・団体)食品ロスを減らしてみよう【実践編】(消費者庁)
「働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)」という言葉があります。働きがいとは、やりがいのある仕事というだけではなく、十分な賃金を得られる仕事であることも含まれます。また、過重労働やハラスメントのないこと、児童労働や強制労働が行われていないことはもちろん、同一労働同一賃金であること、仕事を通じて十分にスキルを積むことができることなども、良好な労働環境を維持していくために必要です。
特に国内の従業員に対しては、男性の育児休業を取りやすくすることも含まれます。また、外国籍従業員が多い企業では、生活習慣や文化の違いなどへの配慮が求められます。
また、小売・宿泊・飲食サービス業に多い非正規雇用従業員の処遇改善に向けた施策としては、公正で透明性の高い「資格等級制度」や「職務能力評価制度」等の導入により、昇進・昇格基準を明確化することや、研修・スキル向上支援の取組みについて正規・非正規の差をなくすことも考えられます。
参考URL: ディーセント・ワークの実現(日本労働組合総連合会)